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Japanese(JP)English (United Kingdom)
授業取材:環境測定演習

授業取材:環境測定演習

白迎玖先生


授業の概要

実際に環境データを取得し、環境負荷のメカニズムについて理解するとともに、我が国が得意とするITC技術の活用も含めた、環境データの解析能力を身につけ、環境データや対策手法に対する科学的な見方や考え方を習得する。 具体的には、基本的な環境質に係る環境測定、ITC技術を用いたデータ処理・分析実験、測定器の作製とそれを用いた環境科学実験を行う。


授業の特徴

実際に履修生が測定機器を用いた環境測定や科学実験を行う。


この授業ならではの特殊な授業環境やネットワーク

SFC 外機関(東海大学、神奈川県環境科学センター)の協力(測定・実験支援、施設・機材の借用など)により実施。


授業の様子/湘南藤沢キャンパス

このクラスでは、国際色豊かな環境の中、履修生が実際に測定機器を用いて環境測定・科学実験を学ぶことができるのが大きな特長です。 日本人だけではなく、中国、アメリカ、ヨルダン、イスラエル、イギリス、モンゴルから集まった、合計20名の学生がこの授業を履修しています。そのため、授業は、英語と日本語で進められ、環境測定と同時に、またそれぞれの国の独自の事情を互いに共有し、国際感覚を身につけることができます。

この日は、第12回環境測定 ③(土壌関係)の授業でしたが、まずは前回の第11回環境測定 ②(温度関係)の復習から始まりました。「温度」には、表面温度、体感温度、WBGT(湿球黒球温度)という3つのデータ指標があります。そのうちの一つ「体感温度」は、高温で高湿度の無風状態の時と、低湿度や日射がない状態では、計算式が違います。つまり、日本では、季節によって計算方法が異なる一方、年間を通して湿度が低いモンゴルでは、同じ計算式で計算することが可能となるのです。
復習が終わると、続いて第12回の授業内容です。このクラスでは、グループ単位で1ヶ月ごとに観測を行い、レポート提出をしていきます。
すでに提出している「6月6日~7月7日」(「one month group project」)の観測レポートでは、調査計画(スケール 、観測要素、モニタリング手法などの検討)を書いて高評価を得たグループがある一方で、測定に失敗してしまったグループや、モニタリング手法に関する問題点が残るグループもありました。
これに関して先生からは「環境測定・モニタリングをする前に、研究目的(何を明らかにしたいか? )を考慮し、観測要素の選定や、研究目的に応じた取得すべきデータなどについて、きちんと議論しなければいけない」というお話がありました。つまり、
1)将来の傾向を予測する Forecastingと、まず将来のターゲットを設定し、そのターゲットを基準にして、今に遡るBack-Casting という二つの手法を用いて、観測項目、取得したいデータなどを明確化できること
2)測定の際に、どのような誤差があり、誤差がなぜ発生するのか、誤差を最小限に抑えるためにはどうすべきか(例えば、誤差をなくすために、機差補正を行うこと)
3)とくに、統計データに関して、In statistics, an error is not a "mistake"という意味を科学的に理解してほしいこと 上記3点に関して、英語・日本語で、説明をして下さいました。

そのあと、この日の主題である環境測定 ③(土壌関係)の講義が始まり、特に土壌のpHレベルに焦点が当てられました。アジサイに、さまざまな色があるのはなぜか?という身近な質問からです。ここでも、日本語と英語で、活発な議論が始まり、土壌の栄養分に関係があるのでは、など、いろいろな意見が、履修生から出されましたが、白先生からのお答えは、土壌の pH が原因だということでした。pH が異なれば、色が違ってくる。つまり、色を変えたければ、土壌のpHを調整すればいいのです。たとえば、ピンクの花を咲かせたければ、土壌のアルカリ度を少し高めるのだということでした。そして、アジサイの花の色から、本論に移りました。植物は、土壌の栄養素と水分を吸収して成長するため、土壌構造とその pH レベルが、植物の成長を左右するのです。ですから、農業の分野では、それぞれの農作物に適した pH を知り、ベストの土壌環境を作り出すことで、農作物の成長を向上させることが可能です。ブルーベリーは、pH レベルが4から5が最適であり、アスパラガスやアーティチョークは、アルカリを好むというお話でした。さらに、この 土壌に関する知識は、ランドスケープ・デザインにも応用できます。アジサイの花の色の例にもあるように、植物によっては、pH を調整することで、植物の色などをコントロールし、より豊かな景観を作り、ランドスケープのデザインに応用できます。さらに注目すべきは、近年の酸性雨対策への応用です。酸性雨は、土壌の pH レベルに影響するため、この pHレベルを観測、分析することで、酸性雨の発生源、分布などを分析することも可能です。ちなみに降雨量の少ないモンゴルの土壌問題について、酸性雨ではなく、農薬の使用が、土壌の pH へ影響しているということがあります。

この講義の後、履修生は、4つのグループに分かれて、ソイル・テスターと呼ばれる土壌酸湿度測定機を使って、実際に教室の周りの土壌の pHを測定しました。前回の授業で学んだように、誤差を考慮し、6回以上の測定が必要になります。4つのグループに分かれて測定しましたが、3地点では pHレベルが7だったのに対し、一つの測定地点の結果は5でした。教室に戻ってから、なぜこの違いが出たのか、議論が始まりました。7が測定された3地点は、人があまり立ち入らないのに対して、5が測定された場所では、人が立ち入ることが多いことが原因ではないのか?あるいは、5が測定された地点には、みかんの木が植えられているので、何らかの影響があるのではないか?しかし、決定的な結論には至らず、その原因を分析することが次回の授業までの課題となりました。

このように、この授業では、理論だけではなく、実際に自分の手で測定をし、その測定結果を検証し、想定外の数値が検出されれば、その理由を追及していく。しかも、多国籍な環境の下で議論を重ねることで、新しい事実に気がついたり、今まで自分では常識だと思っていたことが、海外の視点からみると、実はそうではなかったことに気づかされます。まさに、「環境」という、世界中が注目している問題を、「グローバル」な環境で、「理論と実践」を交えて学ぶことができる授業なのです。


最後に、中国から留学中の謝舟丹さんにお話を伺いました。

Q: 授業の雰囲気はどうですか?いつもどのような形で進行しているのですか?
A: いつも、だいたい今日と同じような感じです。英語と日本語で授業が進められ、講義だけではなくて、科学的な実験も行います。実際に色々な計測機器を使いながら、それをディスカッションしながら検証をしていくことが多いです。

Q: どうしてこの授業を履修しているのですか?
A: EI(環境イノベータ)コースの必修科目だということもありますが、新しい授業なのでとても興味がありました。講義と実験の両方を学んでいけるという部分が大きな魅力だと感じます。実験は、自分の研究内容と直接の関係はないのですが、博士課程の自分の研究に応用できると思っています。

Q:謝さんの研究分野とは?
中国太湖周辺都市の水供給危機管理です。中国の太湖では、富栄養化により、藻類が異常発生し、水質が悪化し、近隣の都市に水不足の問題を引き起こしています。この問題の解決に取り組んでいきたいと思っていますので、特に水質測定の授業は、とても興味深く、今後の自身の研究においても、非常に有意義であると考えています。